傷未満、ため息以上みたいな折り合いのつかない感情が。

「まぁ、なんだかんだやってきたし、いろいろあったけど、あとはもう働いて死ぬだけだな。」が最近の口癖だ。
𠮷澤ハナ 2025.07.17
誰でも

「まぁ、なんだかんだやってきたし、いろいろあったけど、あとはもう働いて死ぬだけだな。」が最近の口癖だ。

もちろんポジティブかつ楽観的なニュアンスである。毎日が平穏そのものだな、なんて時間を消費してたら、忘れた頃に人生は前触れなく痛みを差し出してきたりする。

思わぬ角度でやるせなさを感じるようなことが、いくつ歳を重ねていようが普通に起こる。がっかりしたり、大事にされなかったと勝手に辛くなったり、この先も変わらないと思っていたのに、そうじゃなかった現実に虚無を感じる。

ただ大人なので、いちいち騒いだり怒ったりはもうしない。

そして、ざらっとした感情がなんでもない日のふとしたタイミングで蘇る。
やり場のない気持ちと混ざる身体は、たまに動きがぎこちない。

ぎこちなく動きながらどこか遠くを見て物思いに耽る自分は、他人から見たらなんとも切なげに見えるのではないだろうか、なんてめちゃくちゃ無駄な思考をしたあと、一連の辛さを一旦追いやる。


こんな気持ちも、数日したらたぶん忘れる。

残りの人生をかけて刻むほどではないし、でも、たった一日で水に流せるようなものでもない。

傷未満、ため息以上みたいな折り合いのつかない感情が、なんだかんだいちばん面倒だ。

慰めパーティーも必要ないし、友人に電話して徹夜で聞いてもらうような話でもない。
そこまでの物語は、この断片には含まれない。

微妙な断片をいくつも見送りながら前触れなく訪れる、痛みや驚き、喜びの断片をやり過ごし、手探りでこの先へ向かっていくのだろう。


私たちは、たった一週間さきのことだってわからない。
正しい生き方なんてもっとわからない。

たぶん、あれはなんでもない違和感だった。
気づけばもう忘れて引きずるようなものでもなかった。

特別悲しかったわけでもない。

明日も普通にご飯を食べて、頭は仕事でいっぱいになるだろう。ただ、あの瞬間少し立ち止まった。一瞬、世界がわずかにズレて見えた。

その違和感もそのままやり過ごした。たぶんそういうものだと思うから。



hana

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