タイムマシンがあったなら

どうしてあの頃は、あんなに何かに焦っていたのだろう。
どうして、「抱っこ」とせがむ子どもを後回しにして、家事なんかを優先させていたのだろう。

誰も責めてなんかいないのに、「早くやらなきゃ」「しっかりしなきゃ」なんて考えに追われて、小さい子たちと目を合わすことを何度も後回しにした。

いまならもっと上手くやれるのに、なんて考えばかりが頭をよぎるが、時間は戻ることがなく、ただただやるせない。そして追い詰められながらやっていたはずだった育児だが、きっとそんなに上手くはできていなかった。

夕方に一緒に行った散歩。
コスモスを持つ小さい手。
水たまりを見つけ嬉しそうに笑う顔。

もうどれもはっきりと思い出せない。

家の中で何してたっけな。
寝る前はどんなふうにおやすみをしていたっけな。
どこに一緒に行ったっけ。
花の名前はいくつ教えてあげられただろうか。
何度一緒に空を見れただろうか。
最後に手を繋いだのは、いつだっただろうか。

こんな簡単なことが何ひとつ思い出せない。

もう10年以上も前の話だ、と言われたらそうなのかもしれないけれど、大きく大人になりつつある娘や息子を見ていると、こうして無性に小さい頃の2人に会いたくなる。本当に会いたい。

悲しい思いをしていなかったか、寂しい夜はなかったか、ひとつひとつなぞって確かめたい。
もしも一度だけ、タイムマシンがあったならば。